日本の英語教育における協調学習

酒井 良介(私立武蔵中学高等学校)

はじめに

 近年、協調学習(Cooperative Learning)と呼ばれるグループ活動を中心とした学習形態が新しく確立されつつある。グループ活動自体は、以前から教育現場でも頻繁に使われてきた。特に外国語教育におけるグループ活動は、その様々な効果を明らかにした研究もあり、日本の英語教育でもグループ活動を使う授業はしばしば見られる光景となりつつある。しかし、以下で考察する協調学習とは単なるグループ活動形式の学習ではなく、教育の基本的アプローチを生徒間の協力に置くものである。ここでは、グループ活動は特定の学習活動のための一時的な授業形態ではなく、学習の基礎的概念となる。協調学習は、諸要素を完全に授業に取り入れることによって、学習効果だけでなく、その他のいくつかの成果を期待することができるとされている。

 本稿では、協調学習の理論的背景や必要となる諸要素を明らかにしたうえで、都内の中学校・高等学校で行った意識調査をもとに、グループ学習に対する学習者の動機づけや態度に関しても考察する。そして、この調査の結果を考慮して、日本の英語教育における協調学習のあり方を論じる。

第1章 協調学習の理論的背景

1.協調学習とは何か

 協調学習の定義はそれぞれの研究者によって異なるが、その本質と思われる要素をまとめて、ここでは以下のように定義する。

「協調学習とは、学習者がグループ活動の中で互いの学習を助け合い、一人一人の学習に対する責任を果たすことで、グループとしての目標を達成していく、協調的な相互依存学習である。」

 協調学習は、以前から教育現場で使われていたグループ活動を協調的な相互依存関係を作り出す基礎的学習形態としてとらえ直すことで、従来の「教える」側からの教育を「学ぶ」側からの学習に移行させる教育理念といえよう。

2.情意的理論

 教師中心の授業では、教師一人が同時に全ての生徒に対して肯定的な評価をすることは困難である。時に、一人の生徒の成功が他の生徒の成功する機会を妨げることになる。ある生徒が教師の質問にうまく答えられたとき、他の生徒は自らの能力を評価してもらう機会を逸する。逆にいえば、ある生徒の失敗が他の生徒の成功する機会となるのである。この結果、どうしても「協調」よりも「競争」の要素が学習に影響を与えることとなる。「競争」自体は適切に導入されれば、熱心に学習に向かわせる有効な概念となりうる。しかし、教師中心の競争型の授業では、むしろ一生懸命に学習する生徒は、他の生徒から「教師のお気に入り」として避けられることも多い。特に、他の生徒との関係が非常に重要な思春期には、競争型の授業のもたらす結果は、学習自体を否定的にとらえる学習者を多く生み出すこととなる(Slavin, 1995)。

 一方、協調学習では、学習者個人の能力を向上させる機会とそれに対する報酬が保障されるので、学習に対する動機づけを高めることができ、また学習者が学習自体に対する肯定的な意識を共有することも予想される。特に言語教育においては、グループ活動を行うことで学習者が積極的に活動する雰囲気を作り出し、情意面でのフィルターが下げられるとも考えられる(Krashen, 1982; Long and Porter, 1985; Brown, 1994a, 1994b)。

3.認知的理論

 協調学習は、情意的理論の他に二つの認知的な理論によって、その重要性が説明されている。一つは、Vygotsky(1978)が唱えた「近接発達領域」(zone of proximal development)の考え方に基づく認知発達理論である。彼によれば、近接発達領域とは「独力で問題を解くことで決定される実際の発達段階と、……同年代ではあるが能力のある仲間と一緒に問題を解くことにより決定される、潜在的発達段階との幅を意味する」ものである。協調学習では、特に同年代の学習者とともに共同で学習することにより、学習者一人一人を潜在的な発達段階に導いていくのである。Vygotskyはさらに、学習者のこのような潜在的な発達機能を“つぼみ”にたとえているが、協調学習ではまさにこの“つぼみ”をそれぞれの木(グループ)のもとで一斉に開花させることを目標としているのである。

 もう一つの理論は、認知構造の再構築という考え方である。これは、学習した情報を自らの認知構造に結びつけるように再構築することにより、長期的な記憶は可能になるという諸理論(Ausubel, 1968; Brown 1994a)に基づくものである。グループの中で互いに説明しあい練習しあうことは、この再構築に最も効果のある手段だといえる(Slavin, 1995)。この考えに基づいて、協調学習では学習者はグループの中で互いに聞き手と教え手になり、学習した項目を再生することで学習事項の再構築を行う。

第2章 協調学習の諸要素と効果

1.協調学習の原則

 協調学習は、伝統的に使われてきたグループ活動を、新たな諸要素を導入して一つの学習形態に統合したものである。Slavin(1995)は協調学習の中心となる要素として、以下の3点をあげている。1)グループの目標(group goals):あらかじめ定められた基準に基づきグループ単位で学習の評価が与えられる。2)個人の責任(individual accountability):一人一人の学習の達成度をグループのスコアに反映させたり、あるいはグループ内で各メンバーが特有の役割を持つことにより、学習者は自らの学習に責任を持つようになる。3)成功できる機会の平等(equal opportunities for success): グループに貢献する機会を全ての生徒に平等に与え、その貢献度を学習者個人の成功として評価する。これら全ての要素を持つことが協調学習としての条件であり、グループ活動をする際の原則となる。

 一方、外国語教育に協調学習を取り入れるためには、いくつかの別の要素を考慮することも重要となる。ここでは、Johnson and Johnson(1994)の挙げる5つの要素のなかから、コミュニケーション能力を育成するうえで重要となる要素を2つ取り上げることとする。ひとつは、学習者同士のやりとり(face-to-face promotive interaction)である。言語活動では、結果と同様にその学習過程も重要となるので、学習者には目標言語でやりとりをし、互いの学習を促進させるように奨励する必要がある。もうひとつは、社会的スキル(social skills)である。単にグループで学習するだけではなく、その中でいかに目標言語で円滑なコミュニケーションを進めるかということ自体が重要な要素となってくる。その際には、他のメンバーを助け、励ます学習も授業の一部として組み込む必要がある。

2.協調学習の様々な有効性

 協調学習によって得られる学力は、教師中心の競争型授業に劣ることはなく、むしろ学習形態によっては高い結果となることが明らかになっている。そして、学力を高める要素として重要になるのはグループへの評価と個人の責任とされている。そして、このグループへの評価が学力面で最も効果を現すのは、グループのすべての学習者が目標の学習を達成することを評価に反映したときとなる。そして、グループへの評価を獲得するためにも、学習者個人の責任は学習において大きな役割を示す(Slavin, 1995)。 これは、両要素が学習者にとって学習の直接の動機づけになっているからだといえよう。

 学力の他にも、協調学習はその効果が認められている。一つは上述した社会的スキルの面で、言語学習の域を超えて人間関係の基礎的なストラテジーを実践することも重要である。実際に、多様なマイノリティの共存する教室でいかに円滑な人間関係と社会的スキルを育成するかについての社会科学的研究から生まれた協調学習は、この面での有効性が大きい。また、言語学習にも重要となってくるのは、肯定的な自己イメージ(self-esteem)の育成である。グループ活動を通して他の学習者から人間的に重要に扱われることは、肯定的な自己イメージを育成する。また同時に、学習者一人一人が自らの学力に対しても肯定的な自己評価をすることにつながる(Slavin, 1995)。肯定的な自己イメージは言語学習に肯定的な影響を与えることも分かっており(Brown, 1994a)、外国語教育においても重視されるべき要素だといえる。このように、協調学習によって期待できる効果は様々であり、外国語教育のなかに取り入れる際にも大きな成果が期待できる面が多いといえよう。

第3章 日本の英語学習者の対する意識調査

1.意識調査の目的・方法

 以上でみてきたように、協調学習の有効性は明らかになったが、今後、協調学習を日本の英語教育に取り入れていく際に重要となるのは、実際の学習者の意識・態度である。この章では、筆者が実際に中学生・高校生を対象に行った意識調査の結果を示し、いくつかの点について考察を行う。

 被験者は、私立中学校・高等学校で英語を外国語として学習している男子生徒285人(中学生141人、高校生144人)で、特に協調学習を徹底させている環境ではない。中学校・高等学校ともに1、2学年の2クラスずつを対象とした。性別による違いをみる調査ではなく、男子生徒間のグループ活動に対する意識を調査の対象とした。調査方法に関しては、質問紙による5段階の多肢選択回答法とし、1)英語学習に対する動機づけ、2)教室での言語活動への動機づけ、3)ペア活動に対する動機づけ、4)4人以上でのグループ活動に対する動機づけ、5)学習における「協力」に対する意識・態度、を調査項目とした。

2.仮説と結果

 学習者の動機づけと態度を分析するために、ここでは項目への回答を数量化し、その数値の相関関係を出すこととした。相関関係は各項目の数値をピアソンの相関係数rによって計算し、年齢差も考察するためにそれぞれ中学生と高校生の数値を分けて表した。

 (1)ペア活動に対する意識とグループ活動に対する意識に差はあるか。

 まずはじめに考慮すべきなのは、ここまでグループ活動として述べてきた形態にペア活動と3人以上によるグループ活動があることである。ここではペア活動とグループ活動(4人以上)を区別し、ペア活動を好む学習者は一般的にグループ活動も好むと予想されるので、以下のような仮説が立てられる。

 仮説1:ペア活動とグループ活動に対する学習者の動機づけには大きな相違はみられない。したがって、両者の相関関係は高い。

 結果1:中学生にも(r = 0.587, p < 0.05)、高校生にも(r = 0.751, p < 0.05)差はみられず、ペア活動とグループ活動に対する意識には高いの相関性がみられた。したがって、仮説は支持された。

 (2) 英語学習に対する動機づけとペア・グループ活動に対する動機づけに相関性はあるか。

 次に考察するのは、どのような学習者がペア・グループ活動を好むのかという点である。英語学習自体が好きではない生徒は教室での動機づけが一般的に低くなると考えられるので、ペア・グループ活動も好まないことが予想される。また、教室での言語活動が好きな生徒はペア・グループ活動が好きだということも予想できる。したがって、次の仮説が立てられる。

 仮説2:英語学習への動機づけの高い生徒はペア・グループ活動に対する動機づけも高い。したがって、英語学習への動機づけとペア・グループ活動への動機づけは高い相関関係にある。

 仮説3:教室での英語を用いた言語活動にやる気のある生徒はペア・グループ活動にも高い動機づけを示す。つまり、教室での言語活動への動機づけとペア・グループ活動への動機づけは高い相関関係にある。

 結果2:中学生には、あまり高い相関性はみられなかった(ペア活動に対して、 r = 0.290, p < 0.05、グループ活動に対して、r = 0.089, p < 0.05)。一方、高校生には、高い相関性がみられた(ペア活動に対して、r = 0.440, p < 0.05、グループ活動に対して、r = 0.449, p < 0.05)。したがって、仮説は高校生の場合においてのみ、支持された。

 結果3:中学生にも(ペア活動に対して、r = 0.595, p < 0.05、グループ活動に対して、r = 0.413, p < 0.05)、高校生にも(ペア活動に対して、r = 0.608, p < 0.05、グループ活動に対して、r = 0.548, p < 0.05)かなり高い相関性がみられた。したがって、仮説は支持された。

 (3) 学習における「協力」に対する意識・態度とペア・グループ活動に対する動機づけに相関性はあるか。

 これらの検証をもとに、次は協調学習に対する学習者の態度を考察する必要がある。ペア・グループ活動は学習者間の協力が必要となるので、ペア・グループ活動の好きな生徒は学習において「協力」が重要だと考えることが予想される。このことは次の仮説につながる。

 仮説4:「協力」して学習することを重要に考える生徒は、ペア・グループ活動を好む。このように、学習での「協力」に対する生徒の意識・態度は、彼らのペア・グループ活動への動機づけと相関関係にある。

 結果4:中学生には、相関性は全くみられなかった(ペア活動に対して、r = -0.018, p < 0.05、グループ活動に対して、r = -0.065, p < 0.05)。一方、高校生には、負の高い相関性がみられた(ペア活動に対しては、r = -0.439, p < 0.05、グループ活動に対しては、r = -0.392, p < 0.05)。したがって、中学生に関しては、相関関係がないという点で仮説は否定された。また、高校生においては、負の相関関係がみられたという点で、同様に仮説が否定された。

 この結果をより注意深く検証するためには、別の視点からの考察が必要となる。ここでは、仮説2と仮説4の結果をふまえて次のような仮説を検証してみることとする。

 仮説5:高校生においては、学習での「協力」に対する生徒の意識・態度は、彼らの英語学習に対する動機づけと負の相関関係にある。

 結果5:中学生には、低い相関性しかみられなかった( r = -0.146, p < 0.05)が、高校生には高い負の相関関係がみられた( r = -0.411, p < 0.05)。したがって、仮説は支持された。

 (4) いずれかの相関関係に年齢差(中学生と高校生)はみられるか。

 最後の考察として、動機づけの相関関係にみられる年齢差を見ることにする。上記の分析を総括すると、英語学習に対する動機づけとペア・グループ活動に対する動機づけの関係には、年齢による顕著な違いがみられた。また、学習における「協力」に対する意識・態度とペア・グループ活動に対する動機づけの関係にも大きな違いがみられた。この2つの違いから予想されたとおり、仮説5の結果では、学習における「協力」に対する意識・態度と英語学習に対する動機づけの関係においても年齢差が現れていた。

4.考察

 ペア活動に対する意識・態度とグループ活動に対する意識・態度には差がないことが分かった。ペア・グループ活動に対する意識は、高校生にのみ英語学習自体に対する動機づけとの高い相関関係がみられた。このことは、中学生は英語の好き嫌いに関わらず、ペア・グループ活動をとらえていることを意味する。したがって、英語嫌いの中学生にとっても、グループ活動は動機づけの手段になりうるのかもしれない。また、高校生になるとグループ活動の好き嫌いは、英語学習に対する意識・態度と関わってくる。このことから、高校生がグループ活動を行う場合には、特に英語が嫌いな生徒に対する配慮が重要になってくる。教室での言語活動に対する意識・態度となると、中学生・高校生ともにグループ活動との相関性が高くみられた。このことから、教室で英語を使うことが好きな生徒はグループ活動での学習も好むといえる。

 今回の調査で最も興味深いのは、学習における「協力」への意識とグループ活動への動機づけの関係である。中学生には相関関係はみられなかったが、高校生には負の相関関係がみられた。高校生にとっては、グループ活動はむしろお互いが「競争」しながら学習しあうものだという意識があるのかもしれない。また、英語学習への動機づけと「協力」への意識・態度の相関性が高い負の関係にあることから、英語嫌いな生徒ほど「協力」を求めていると考えられる。このことは、まさに協調学習の必要性を明らかにしているといえよう。

おわりに

 本稿では、日本において協調学習を取り入れる際の基盤となるいくつかの視点を提示してきた。協調学習では学力面の効果に加え、英語学習に有益ないくつかの効果があることが分かった。一方、協調学習の基盤であるグループ活動を授業に導入する際には、その原則としていくつかの要素を考慮しなければならない。もし学習者に「グループで活動しなさい」とただ指示するだけであれば、それは協調学習とはいえない。しっかりと計画されていないグループ学習であれば、教師中心型の授業の方が効果があるかもしれない。はじめに述べたように、協調学習では学習者一人一人が自らの学習に責任を持ち、個々の学習を促進させるように協力することが重要となる。そのためには、教師の側がグループ学習への評価基準を明確にし、協力活動自体を奨励する必要があろう。

 また、協調学習を導入する際には学習者の持つ学習意欲・関心についても考慮する必要がある。本論の学習者への意識調査で明らかになったように、学習者の学年や英語学習自体に対する態度も協調学習への動機づけと関連してくる。したがって、協調学習を取り入れる前に、教師は学習者の持つ動機づけについて知っておく必要がある。そもそも英語学習に意欲のある生徒はグループ活動も好む。一方、英語嫌いな生徒は「協力」を必要としている。教師は、このことを協調学習への可能性として受け止め、「協力しながら学ぶ」英語の授業を作り上げていくことができるだろう。英語のできる生徒、英語が好きな生徒だけをのばす教育から脱し、英語のできない生徒、英語の嫌いな生徒をもいかにのばすかを考えるとき、協調学習の持つ可能性は決して軽く評価されるべきではない。

引用文献

 Ausubel, David. 1968. Educational Psychology: A Cognitive View. New York: Holt, Rinehart & Winston.

 Brown, H Douglas. 1994a. Principles of Language Learning and Teaching, 3rd Ed. Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.

 Brown, H. Douglas. 1994b. Teaching by Principles: An Interactive Approach to Language Pedagogy. Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.

 Krashen, Stephen. 1982. Principles and Practices in Second Language Acquisition. Oxford: Pergamon.

 Johnson, W. David and Johnson T. Roger. 1994. Cooperative learning in second language classes. The Language Teacher 18/10.

 Long, H. Michael and Porter, A. Patricia. 1985. Group work, interlanguage, and second language acquisition. TESOL Quarterly 19.

 Slavin, E. Robert. 1995. Cooperative Learning: Theory, Research, and Practice. Needham Heights, MA: Ally and Bacon.

 Vygotsky, S. Lev. 1978. Mind in Society. Cambridge, MA: Harvard University.


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