ASTE NEWSLETTER
第37号
1997年9月1日発行



目次:発表論文


 入試が悪いという前
--入試英語を活かすための授業に向けての提案--
渡部良典(ICU)

ASTE第88会例会 関先生の講演を聞いて
   山本ちひろ(桐朋女子中学・高校)

  教育実習に向けて-- 実習生に求められるものは?
   石川和弘(清泉女学院中・高等学校)

    スピーキングをどう評価する--英検の面接試験をサンプルにしてのワークショップ
    柳瀬和明(都立九段高等学校)



ASTE1997年度後期予定


               第90回ASTE例会            講演・ワークショップ:

スピーキングをどう評価するかー第2弾
   --SST(ACTFL-ALC Standard Speaking Test)の可能性を探る--
講師:相馬晶夫 (神奈川県立市ヶ尾高等学校)
日時:1997年 10月25日(土) 15:00−17:00  
場所:6−312 教室

               第91回ASTE例会
講演・ワークショップ:

テストを利用して中学生の『英語学習』を変容 させる試み--リーデイング及びリスニングについて、最近の実践をもとに報 告します-- 
講師:関 典明(成城学園中学校)
日時:1997年 11月8日(土)  15:00−17:00  
場所:6−311教室 

               第92回ASTE例会

シンポジウム:

中高の英語教育はどのように変わるか
    ー今年のテーマ「試験が変わる・授業がかわる」を振り返ってー
パネリスト:ASTE運営委員
日時:1998年 1月24日(土)  15:00−17:00
場所:6−311教室 



    お知らせ        




入試が悪いという前に
--入試英語を生かすための授業に向けての提案--


ASTE 第87回例会  1997年4月26日  渡部良典(国際基督教大学)

はじめに

 1994年から1995年にかけて日本の大学入学試験の波及効果に関する調査を行なった。確かにこれまでも多くの「調査報告」がなされてきた。しかし、そのほとんどはアンケートやインタビューに基づいた報告であるため、提供された情報は間接的なものであった。入試の波及効果について人はどう言っているか(意見)はわかっても、それがどれだけ事実を反映したものかについてはほとんど何もわかっていなかった、といってよい。海外に目を転じても事情は変わらず、直接観察に基づいたテストの波及効果についての報告はESL/EFLの分野で Wall & Alderson (1993), Shohamy (1993), Alderson & Hamp-Lyons (1996) など、数少ない例外があるのみであった。
 そこで、我が国の入試準備教育で実際にどのようなことが行われているのかを、授業観察に基づいて調査してみることにした。高校の「通常の授業」「受験準備のための特別授業」及び、予備校の「国立向けコース」「私立向けのコース」を対象に、述べ50時間の観察を行なった。「使用教材」「教師と生徒のインターアクション」「使用言語」等々、60項目についてデータを分析した結果、先生方の個人差が大きく、目的(すなわち、入試準備か否か、国立か、私立か)による差は非常に小さい、ということがわかった。「波及効果はテストに内在するものではない。」というのが結論である。ここから「入学試験の内容を変えても、それだけで教育のあらゆる側面が変わるわけではない」という予測がたつ。入試は直接授業に影響は及ぼすわけではない、その間にはなにか仲介者があって、初めて波及効果は起こるのである。
 それでは、その仲介者はだれか、というのが次なる疑問である。この調査の結果が示すところでは、「テスト作成者」「日本の文化」「補助教材を作成する業者」「マスコミ」などが候補に挙げられる。しかし、最も大きな要因と考えられるのは、実際に入試準備教育を担当する「教師」なのである。
 それでは、教師がどうすれば、よりよい波及効果は得られるのか、すなわち、受験準備教育を使える英語力養成の機会として用いるためには何が必要なのか。以下に、授業観察の結果と、その後に行った先生方―観察した授業を担当なさっていた−とのインタビューに基づいた提案をまとめてみた。(インタビューの目的は主に「授業で行われていたことの背景にある意図」を尋ねることにあった。)

1. 入試準備教育に関するビリーフを確認する

心理学の教える所によれば、人が動かされるのは必ずしも事実によるわけではなく、事実と認識されたものによるのである。従って、入試準備教育に対して抱いているイメージが、ネガティブなものであるならば、それをポジティブに変える必要がある。すなわち、受験準備教育は実際に使える英語に結びつく、という強い信念をもつ必要がある。以下は先生方一般に見受けられるネガティブなビリーフであった。

入試準備教育では実際に使える英語力は教えられない。
入試準備教育では自分が教えたいことは教えられない。
入試準備教育に対して生徒はある特定の内容(例えば、文法、語法)を特定の方法(文法訳読)で教えてもらいたい、と期待している。教師はその期待に答えなければならない。
入試に合格するためには、いわゆる「受験技術」は必要である。生徒もそれを期待している。

上記a), b)は、いわば「入試に対する敗北感」である。このようなビリーフを抱いている限りたとえどのように試験が変わったとしても望ましい波及効果は得られないであろう。「出来ない」という言い訳は限りなく出てくるからである。従って、このような思い込みから脱却する努力が必要である。c)とd)、に関しては、生徒は本当にそのようなことを期待しているのか、他にどのような教育を望んでいるのか、等々、調査してみてはどうだろう。その結果を基に本当に入試にパスするために必要な内容なのかどうか、を考えてみるのである。例えば生徒は「入試には単語の丸暗記が必要で、それは実際に英語を使う場合にはほとんど役に立たない。」と思っているかもしれない。しかし、単語を知らないではコミュニケーションはできない、文章は理解できない、受験のために学んだ単語は実際に使える英語のためになるのだと、生徒を説得することは可能であろう。 2.学校、教室の環境を整える

望ましい波及効果を得るためには外的条件を整える必要がある。 通常の授業のイノベーション(革新)からまずは始める。その後、それを入試向けの授業に使ってみる。
できれば少人数のクラスにする。できなければ、グループワーク、ペアワークなどをなるべく多く取り入れる。
理科系、文科系といった分け方ではなく、習熟度別のクラス配分にする。

3.入試用の練習問題の使用に工夫を

入試向けの授業では通常過去の問題を使う。しかし、望ましい波及効果を得るためには、教材の選び方にも工夫が必要である。 リスニング、ライティングなど、直接技能を計ることを目的とした練習問題を使う。
ある特定のスキルの練習問題は他のスキルの練習にも使う。(例えば、リスニングであれば、ただ録音教材を流し、生徒に問題に答えさせるだけではなく、後に、内容を英語でサマライズさせる、キーワードをブランクにし、書写したものを渡し、文章を完成させる、など。)
なるべく実際に使われている英語―いわゆるauthenticな英語―を教材に使う。
学習者のレベルに応じた問題を使う。あまりに易しすぎる問題、難しすぎる問題は使わない。

4.多様な教授法を用いる

教師は様々な教授法を必要に応じて使える必要がある。入試にリスニングテストを導入したとしても、教師が教授法を知らなければ波及効果は得られない。また、様々なリーディングの教授方法を知らなければ、入試教育であるか否か、目標大学の入試がどのようなものか、に関わらず、極めて限られた方法のみに頼る傾向がある。

4.1 学習者に参加の機会を与える

答え合わせの際、ただ単に模範解答を与え、教師が説明を加えるだけではなく、生徒自身に考え、発言する機会を与える。

発言の機会をなるべく多く与える。
質問の機会を与える。
できるだけ英語で発話させる。
なるべく長く発言させるようにする。

4.2 多様なリーディング教授法を用いる

リーディング教材は他のスキルに比べて多く使用されている。しかし、与えられた問題に答えさせ、文章に説明を加えるだけではなく、直接試験を受けるにも役立ち、実際の読解にも助けとなるような方法を用いる。

ボトムアップだけでなくトップダウン法も取り入れる。(例えば、出だしの文から文章全体の内容を予測させる、必要な情報を探し出させる、メインアイディアをできるだけ速く掴ませる、など。)
リーディングやリスニングの教材をサマライズさせる。
リーディングやリスニングの教材のアウトラインを書かせる。
文法の説明を行なう際は全文について行なわない。説明したからといって習得、理解に繋がらないかもしれない。難しい構文についてのみ行なう。
難しくしかも重要な文だけ翻訳する。簡単な文を翻訳する必要はない。
文章の文化的背景、などについての知識を与える。

4.3 教授の手順/形態に工夫を加える

受験準備教育の際、よく行われている授業形態は、過去の問題を配り、一定の時間を与え、後に簡単な説明を与えながら答えあわせをする、というものだった。しかし、過去の問題は自宅での課題とし、学校では学校でしかできないこと、例えば他の生徒と答あわせをする、なぜ、どこが間違っているのかを討議させる、等々、様々な形態が考えられるのではないだろうか。そのようなことをする時間がない、という不満を耳にすることもあった。しかし、これは実際にある高校で行われていたことなのである。通常の授業では時間配分を十分配慮するのが普通である。受験教育でも同様のことが行われてもよいのではないだろうか。

授業の時間を節約するため、練習問題の模範解答はプリントして配る。
学生の注意を引くため、ゲーム、など多様なアクティビティーを取り入れる。
時間配分を考える。

最後に

 以上をご覧になって「必ずしも入試準備教育に限ったことではないじゃないか」と思われるかもしれない。まさにその通りなのであって、冒頭に述べた通り、授業観察の結果が示す所によれば、通常の授業と受験向けの授業に大きな差はないが、教師間の差は非常に大きいのである。この結果は、「通常の授業で行われている教育が受験準備教育にも反映される」と解釈できる。教師は受験準備教育についてどこか後ろめたい気持ちをもっているようだ。しかし、受験教育も英語運用能力につながる可能性があるのならば、胸をはって、通常の授業と同じような情熱をもって臨んでもよいのではないだろうか。
 以上の提案は「入試英語を生かした授業」のごく一部にすぎない。今後、更に具体化し、より多様な方法をリストに加えてゆく必要がある。これらの教授法は、受験にパスするためだけではなく、また「使える英語力」を高めるためにも効果的でなければならない。結果は、実際に教育に携わっていらっしゃる先生方は勿論のこと、これから教師を目指す学生にも益するところ大であろう。
入試に対する私たちの態度として以下の3つが挙げられるように思われる。1)試験にパスする以外には全く無駄である、と思いながらも仕方がないので教える。2)試験は全く無視してあたかも存在しないかのように教える。3)英語力を高める機会として積極的に取り組む。本稿では3)の立場をとることを前提に具体的な提案を行なった。「入試が悪いと言う前に、我々でできることがあるのではないか」というのが本稿の意図したところである。
 勿論、よりよき波及効果を得るためには教師だけが責任を負うだけでは不十分である。大学での英語教育のありかた、マスコミ、等々、入試にかかわる全ての人々のイニシャティブが必要である。とりわけテスト作成者の責任は重い。しかし、信頼性、妥当性において優れたテストが良い波及効果を及ぼすとは限らない、公正に受験生を入学させる試験と、教育によい影響を及ぼす試験との間には必ずしも直接の関係はない、ということを最後に重ねて強調しておきたい。

参考文献

本稿ではリサーチについてほとんど触れなかった。この方面の特に調査に関心のある方のために以下にいくつか基本文献を挙げる

Alderson, J. C., & Hamp-Lyons, L. 1996. TOEFL preparation courses: a study of washback.   Language Testing, 13/3, 280-297.
Alderson, J.C. & Wall, D. (1993). Does Washback Exist? Applied linguistics, 14/2, 115-129.
 
*Washbackについて実証研究の必要性を説いた画期的な論文。この分野でなにをおいても先に読むべき最重要基礎文献。
Alderson, J.C., Clapham, C., & Wall, D. (1995). Language Test Construction and Evaluation. Cambridge University Press. 
 
*テスト、特に入学試験のような大きな試験の作成者は問題作成の前に目的、採点方 法、テスト終了後のデータ作成の重要性を具体的に説く。テスト関係の統計データの分析方法についても基本的なものについてはこれ以上できないくらいわかりやすくまとめ ている。
Rohlen, T. (1983). Japan's High Schools. Berkeley, University of California Press.  *(民族学者が日本の高校についてまとめた、ほとんど唯一の詳細な観察報告。入試については1章をさいて報告している。サイマルから翻訳が出版されている。)
Shohamy, E. 1993. The power of tests: the impact of language testson teaching and learning. The national foreign language center: Washington D.C.
Wall, D., & J. C. Alderson 1993. Examining washback: the Sri Lankan Impact Study. Language  Testing, 10, 1, 41-69.
Watanabe, Y. (1992). Washback Effects of a College Entrance Examination on Language Learning  Strategies. JACET Bulletin 23, 175-194.
---. (1996a). Does Grammar Translation Come from the Entrance Examination? LanguageTesting, 13/3, 318-333.
---. (1996b). Investigating Washback in Japanese EFL classrooms. Australian Review of Applied Linguistics, Series S, 208-239.
---. (1997). The Washback Effects of the Japanese University Entrance Examinations of English - Classroom-based Research. PhD thesis, Lancaster University.
 *(以上は現筆者の論文ばかりで気が引けるのであるが、日本の入学試験の波及効果に関する類似の研究はほとんど皆無であるので、敢て挙げた次第である。1996bは特に手に入りにくいのでご希望の方はご一方ください。お送りします。)

すでに様々な試みをなさっている先生も大勢いらっしゃることと思います。よろしければご教示下さい。宛先はできればe-mailでwatanabe@icu.ac.jpまでお願いいたします。



ASTE第88会例会 関先生の講演を聞いて


ASTE第88回例会  1997年5月24日  山本 ちひろ
                   (桐朋女子中学・高等学校)

 英語教師は教育者であるだけではなくて、同時に扇動者である必要がある。これがASTE第88回例会において関典明先生のお話を伺って私が感じたことです。扇動する、というと何か悪い意味にとられてしまいそうですが、ここで私が「扇動者」としたのは「生徒を上手く乗せて、授業を活気づかせることが出来る人」のことです。
 関先生の「教育実習:コロバヌサキのツエ/チエ」の講演は、これから教育実習にいく人々を主な対象としていたのですが、今年の4月から教員として英語を教え始めた私にとっても、大変勉強になるお話でした。英語教師は出来るだけ工夫して授業を運営していく必要がある、と強く感じました。
 関先生のお話を伺って、教材をいかに工夫して使うか、そして授業を進めていく上で、教師が話術などの指導技術をいかに工夫するかが大切なのではないかと感じました。確かに、今まで何人かの先生の授業を見学して、生徒が熱心に取り組んでいたり、活気があるな、と思ったような授業では、先生方がいろいろと工夫した教材を使っていらっしゃったり、生徒に対して絶えずなんらかの形で、声を掛けていらっしゃったように思います。
 関先生は御自身が授業の中で実際に行なっている、教材の使い方の工夫を紹介してくださいました。例えば、「テープを聞かせてみても眼はうつろ」な生徒に対して、テープを聞かせる前にその内容を理解するのを助けるような質問をつくったり、どのような点に注意して聞くかを事前に伝えておく、ということをおっしゃっていました。また、意味を取る前の音読は、生徒が意味も分からず読んでいる可能性があるので、意味を先に取らせてから音読をする方が効果的である、ということも指摘しておられました。
 授業運営の工夫は教材の工夫だけに留まりません。扇動者としての英語教師は、生徒を乗せていくために、話術などの様々な指導上の技術を、授業の中で駆使していかなくてはいけません。関先生が「生徒を常に挑発する」とおっしゃっていたのが印象的です。例えば、「大事だよ、と説明しても聞いちゃいない」生徒が多い時は「これから大事なことを言うので1度だけちいさーい声で言いますね」と言うなどして、生徒の注目を集める、という工夫をするそうです。
 また「問題に答えてくれたが大間違い」の生徒に対しては、クラス全員に「おそらくこの問題が出来なかった人はたくさんいるでしょう」などと言って(実際には誰も間違えない問題であろうとも)、間違った生徒を孤立させない、などの工夫をなさるそうです。このほかにもいろいろな技術についてお話して下さいました。関先生のユーモアあふれる講演を伺って、先生の中に扇動者としての英語教師をみたような気がしました。
 現在、私はどうやって授業をつくっていくか、毎日試行錯誤しています。とくに、生徒に興味を持って授業に臨んでもらうことが難しいと感じています。授業中に退屈そうにしている生徒をみかけると、いつも「今日の授業の何が悪かったのだろう?」と気にかかります。もちろん、一番の理由は私の未熟さなのでしょうが、それと同時に全ての生徒が英語に興味を持っている訳ではないこと、いろいろなレベルの生徒が一斉に授業を受けていることなどの理由が、全員を引き込む授業をつくることをとても難しくしているように思います。出来るだけ多くの生徒を授業に集中させるためには、やはり教師が授業運営を工夫してゆく必要があるのでしょう。
ハ教育実習は、先生方の授業運営の工夫を観察する絶好のチャンスだと思います。私もこれから授業を見学する際には、先生方がどのような工夫をして授業を運営しているか、といx$ことに注目したいと思っています。関先生、石川先生を始めとする、ASTEの先生方が御自身の授業運営上の工夫を紹介してくださったことに大変感謝しています。


教育実習に向けて-- 実習生に求められるものは?


ASTE第88回例会   1997年5月24日       石川和弘
                     (清泉女学院中学高等学校)

 今回のASTEの例会では,教育実習の最中に生じる思いがけない出来事ということでお話ししようと思っていましたところ,関先生も同じ様なことを話すつもりであるということを知らされました.そこで関先生が授業展開の際にその内容な面に関係があることを話し,私はもっと物理的な,即物的な面での思いがけい突発事態を中心に話すことにしました.期せずしてこのようなポイントを二人が考えたことに教職の経験を感じます.
 以下では,授業観察・教育実習中の思いがけない出来事・実習生と教官との関係の取り方について述べることにします.なお,この内容は総括的なものではなく,教育実習に何年か携わっていて,実習に行く前に実習生が承知していたほうがよいと思われることを集めたものであることをお断りしておきます.また例会で実際に話したことの一部は紙面の都合で割愛してあります.

(1)授業観察での留意点
 授業見学では,どのように授業が展開されるかだけでなく,教師がどのように生徒に指示を出しているかを観察したらよいかと思います.今までの教育実習生を見ていると,せっかく丹念に準備をしたのに指示の与え方が適切でないために生徒が混乱し予定通りに授業が進んでいかないということを何度か目撃しました.適切な指示の出し方は教育実習の成功のひとつの鍵になると思われますので¥初めに触れておきます.

(2)授業中に起きる思いがけないこと
まず,ある程度準備すれば対応できることについてお話しします.ワザワイは分かっていてもやってきます.どこまで準備ができるかが問題でしょう.ここで挙げるものがすべてではありませんが,応用ができる視点を持つことが大切だと思います.授業の具体的なイメージをどれだけ前もって持つことができるかが鍵です.問題意識さえ持っていれば,対応は難しくありません.
1)テープレコーダーが走らない.コードがとどかない.あらかじめ教室を調べ,コンセントの位置,電気が来ているかどうか,自分が使うテープレコーダーの線は十分に長いかなどチェックポイントはたくさんあります.
2)テープレコーダーの頭出しがなかなかできない.教育実習のときには,多くの場合学校にあるテープレコーダーを使うと思われますが,自分のと違うと操作に慣れていないため,うまくいかないことがあります.予め慣れておくことが必要です.あまりないことですが,生徒が休み時間にいたずらをしてテープを回してしまうことがあります.教室で使うものは,目の届くところに置いておく配慮が必要です.この機械のトラブルは,授業の流れをストップさせ生徒の集中力をそぎます.ポーズ→再生だけで全部授業ができるように,巻きもどしの必要のないテープをあらかじめ作っておくことをお勧めします
3)黒板に書こうと思ったらチョークがない.教室には必ずチョークがあるとは思わないこと.特に色チョークは自分でチョークは用意しておく方がよいでしょう.
4)生徒が授業に関係のない質問をした.こんな時はできるだけ早く打ち切ることが大切です.生徒はコミュニケーションを持つためにこのような質問をすることもあるし,実習生の実力を試すためにすることもあります.しかし,『よくぞきいてくれた』と言うような質問でも授業の内容に関係がなければ早く打ち切ることが大切です.
5)居眠りしている生徒を見つけた.内職をしている生徒を見つけた.これらは自分の教官が日頃どのような対応をしているかを予め確認しておき,同じ対応をするべきでしょう.実習生だからといってやさしくするのは教官に迷惑です.
6)突然喉がかれて声がでなくなった.これは,許されないでしょう.日頃あまり大きい声で話さない人は教育実習に行く前に,十分に練習をしておくことが必要です.
7)予定の範囲を授業の終了時間前に終わってしまった.これはよくあるケースです.問題を大目に用意しておくとこのような状況が切り抜けられます.準備をしない余談などで間を持たせるのは聞いているほうにとっては苦痛以外の何物でもありません.
 次に準備では対応できない種類のハプニングを挙げます.
8)生徒が急に気持ちが悪いと言い出した.保健室などへ行かせる場合には付き添いをつけることが必要な時もあります.大げさにはしないで淡々と授業を進めることが必要でしょう.
9)次に授業があるのに,生徒が質問に来てなかなか帰らない.次の授業に遅れないように誠意をもって打ち切るようにする.生徒も次の授業にでることを前提に対応する.
10)窓から蜂が入ってきて生徒が大騒ぎ.時節がら窓を開けて授業をしていると時々こういうことが起きます.いなくなったら,できるだけ早く生徒の意識を授業に戻し平然と授業を続けることがよいと思います.授業がつまらないと騒ぎが長引きます.
11)地震が来た.まず自分ではなく生徒の安全を第1に対応する.日頃の学校の訓練で何をしているか,防災時の標準的対応と非難ルートを前もって調べておく必要があります.

 最後に授業外の思わぬ出来事について少し触れます.

12)通勤の途中で自分の学校の生徒が喫煙しているのを見つけた。5)と同じ範疇のハプニングです.学校の日頃の対応の通りにするべきです.実習生はまだ自分も若いので生徒気分でいることが多いようですが,生徒(特に中学生)から見ると,他の教師と同じように立派な大人に見えます.実習の機会を与えてくれている学校に迷惑にならないように振る舞うべきです.突発事故ではないけれども,生徒に高校時代の経験を質問されたりした時『自分は勉強していなかった』とは絶対に言わないことなども,同じ視点から捉えるべき条項でしょう.
13)授業の準備をしていたら突然,用事を頼まれた.学校は教えていればよいわけではないことを知るのも実習のうちです.そこで確実にできる準備は家ですることになります.

(3)教官とのスタンスの取り方
 教育実習生は,student teacher と言われます.教官に対しては生徒ですし,生徒に対しては教師です.そこで生徒がいる前で教官に対してどのようなスタンスで臨むかが問題になりますが,ここでは教官の望むような生徒として,教官に接するのが望ましいと思い
ます。



スピーキングをどう評価する--英検の面接試験をサンプルにしてのワークショップ

ASTE第89回例会   1997年6月14日   柳瀬和明(都立九段高等学校)
                              
 今年度より新しくなった英語検定試験の面接試験における評価について、ワークショップ形式で参加された方々に面接試験のビデオを見ながら採点をして頂いた。評価の別れた点について、率直な意見交換が行われた。
1. 主な面接試験と一人当たりの所要時間の比較
 OPI(Oral Proficiency Interview)では約30分、TOEICのLPI
(Language Proficiency Interview)では20〜25分SST(Standard Speaking Test )では約15分、そして英語検定試験二次面接では5〜7分となっている。英検は受験者数が圧倒的に多いために、限られた時間内でいかに評価を行うかが問われる。 

2. 高校入試、大学入試における英検資格の優遇措置の状況


( )内は推薦入試件数 参考:英語検定協会発行資料
 

入試年度

公立高校

私立高校

短期大学

大学

1995

----

171(112)

165(130)

164(148)

1996

179(96)

208(130)

206(156)

194(171)

1997

95(52)

120(83)

227(167)

204(178)


 1997年度入試において、公立私立高校における優遇措置数が減少しているかのように見えるが、これは英語検定協会によるアンケート調査の方法が、1996年度と異なったためにに生じた数値的変化である。実際には英検資格を入試に反映させる傾向は年々強まっていると考えられる。
(優遇措置のタイプ)
  (1) 出願条件:学業成績(評定平均値)以外の条件の1つとして認定 
(2) 判定優遇:ボーダーライン上での優遇措置
  (3) 点数加算:点数化して試験の得点に加算
  (4) 学科試験免除:英語の試験を免除


3. 面接試験形態のリニューアルの概要    参考:英語検定協会発行資料
 



4. 新旧形態におけるDisplay要素とReferential要素の比較
 コミュニケーション活動における質問の形態は、以下のような2種に分けて考えることができる。Referentialの要素が強くなればなるほど、実際のコミュニケーションにより近づくと考えられる。   
Display Question: "known information questions" -
that is, questions to which the teacher already knows th answers. ( Long & Sato 1983 )
(質問者があらかじめ解答を持っている質問)
Referential Question: "true information questions "-
those which refer to actual information sought by the questioner( Long & Sato,1983 )
(質問者が欲しい情報をさぐる質問)
When we consider these two terms, it is important to note that they are not categorically discrete, but occupy the opposite ends of the same continuum: the continuumof 'predictability.'

    +predictability      -predictability
   display |----|----|----|----|----| referential
    ( Yoshida 1993, A GUIDE TO ORAL COMMUNICATION)

 


5. Referential Questionに対する応答を評価する際のポイント
求める応答が比較的「一定」(予測可能)であるDisplay
Questionに対して、Referential Questionの場合には様々な応答が許容範囲となるため、模範解答そのものではない「評価基準」が必要となる。その基準として、次のような観点が考えられる。
   (1) Contentに関する基準(情報の量・質)
  量:求められる情報の重要度に大きな差が見られない場合
    (単純描写や理由の列挙等、描写の手法「全体像」vs 「細部」)
 質:求められる情報の重要度が異なる場合
    (因果関係や時間的経過を含んだ描写等、「キー情報」の有無)
     (2) Form(Delivery)に関する基準
     構成:複数の情報を要領よくまとめる(情報列挙のスタイル等)
     語彙:使用語彙の適切さ 
     発音:一語一語の発音、連音、イントネーション
     文法・語法:時制、コロケーション等の適切さ

6. 「アテイチュード」を評価に加える
 新しい英検の面接では、「積極的にコミュニケーションを図ろうとする姿勢」を次のような観点から評価することとなった。
  1. 質問を理解しようと努めているか
  2. コミュニケーションの自然な流れを損なわないスムーズな応答ができているか
3. 沈黙しないで積極的に自己表現し、自分を理解してもらおうと努め、コミュニケーションを持続させていこうとする意欲があるか
4. 音声は明瞭か        

7. ワークショプ用採点欄(採点はすべて5点満点・各問の合格ラインは3点とする)
 上記の観点を踏まえて、3級、準2級、そして2級の面接ビデオを見ながら実際に採点をしてもらった。以下はその際に用いた「採点用紙」と3級の「面接カード」のサンプルである。 
                                       
       

           

3級 受験者用問題カード
Birthday Party
 [Questions]
Birthdays are very happy times. A birthday party is always fun for the whole family. We can invite friends to the party, play games and enjoy a delicious meal.

No.1 Please look at the picture. What's on the table?
No.2 What is the girl going to do?
No.3 How does the mother look?
No.4 Now, Ms.(Mr.)____. What kind of present do you
want on your next birthday?
I want ______. →A
Nothing particular.→B 
No.5 A: Why do you want it?
B: Why not?

<**挿絵省略>


8. まとめ
 参加された方々に実際に採点をして頂く中で、様々な点数のズレが生じた。そのズレについて時間の許す限り、「なぜ○○という点にしたのか」という基準や考え方を率直に出して頂いた。多くの方々の積極的な議論参加の中で、あらためてスピーキングの評価の難しさが浮き彫りとなった。
 意見交換の中で出てきた点をいくつかを以下に紹介する。
(1) 音読における「個々の語句の発音」、「センスグループ」、「リズム・イントネーション」をどの程度の重みで評価したらよいのか。
(2) 描写を求める質問はどのようにするのが適切なのか。
(3) 複数の情報を描写する際に何をもって点数の差をつけるのか。
(4) 「アテイチュード」の適切な評価基準は何か。
(5) 試験官は受験者に発話を促すキューをある程度出してもよいのではないか。
 (受験者が黙ってしまった時への対処の仕方をどうするか)
(6) 面接官のレベルのばらつきをどうおさえるか。

 受験者のスピーキング能力を厳密に測定するには、試験官の能力の信頼性、測定の客観性を保つための面接時間、面接方法の妥当性など、様々な要素をどこまで突き詰めていくのかという大きな問題と同時に、非英語圏の学習者がどうしたら手軽に受験できるのかという実用性の問題とのすり合わせも考えなけばならない。
受験者のスピーキング能力を厳密に測定するには、試験官の能力の信頼性、測定の客観性を保つための面接時間、面接方法の妥当性など、様々な要素をどこまで突き詰めていくのかという大きな問題と同時に、非英語圏の学習者がどうしたら手軽に受験できるのかという実用性の問題とのすり合わせも考えなければならない。
冒頭に挙げたそれぞれの面接試験にはそれぞれに特長があり、試験の作成、実施関係者にはより一層信頼度が高く、また実用的なものを目指して頂く一方で、学校現場においては日常の授業の中でそれらの方向性を前向きに反映させていく必要があろう。
 最後に、今回のワークショップにあたり、貴重な資料を提供して下さった(財)日本英語検定協会と(株)アルクの関係者の方々に厚く御礼申し上げます。


お知らせ

1)ASTE HOME PAGE :文英堂ホームページに!!
創立15年を機会に、ASTE の HOME PAGE を開設しましたが、いよいよ阪口先生の個人ホームページの仮住まいから独立し、Birdland A, B の出版元である文英堂のホームページに移りました。今後は、Birdland の企画などとも一緒に、色々新しい情報、試みを皆様にご紹介していきたいと思っております。また、Newsletter に関しては、まだ、第34号の Newsletterからしか載っていませんが、徐々に充実させて行きたいと思っています。下記のinternet address に接続してみてください。色々ご意見などございましたら、どうぞ、事務局の方までお知らせください。

ASTE HOME PAGE: http://www.bun-eido.or.jp

 なお、この Newsletter は今後も HOME PAGE に全文載せますので、Newsletter の送付が必要なくなる方は、事務局までお知らせください。

2)上智大学大学院応用言語学研究会 HOME PAGE
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