ASSOCIATION OF SOPHIAN TEACHERS OF ENGLISH
           上 智 大 学 英 語 教 員 研 究 会

NEWSLETTER

42号          2000年3月31日

目次

(2K+) plus をふまえたY2Kに.... 2

「ネパールとNGOに出会う授業をめざして」3

Non-threateningClassroom Observation9

21世紀の英語教育に向けて--報告.... 14

〜〜〜お知らせ〜〜〜.... 16

1) ASTE  Newsletter は、ASTE のホームページ... 16

2)上智大学大学院応用言語学研究会 HOME PAGE.. 16

3)上智大学外国語学部英語学科 HOME PAGE.. 16

4)上智大学外国語学部言語学副専攻監修 「言語研究のすすめ」17

5)上智大学大学院応用言語学研究会... 17

ASTE 2000年度前期予定.... 17

The 27th Seminar Sophia Seminar for High School Teachers of English.. 18

ASTE20周年記念行事のお知らせ.... 19

会長挨拶

(2K+) plus をふまえたY2Kに

清泉女学院中学高等学校 石川和弘

 会員の皆さまには,2002年度から実施される新指導要領にむけた準備でお忙しいこの頃と拝察いたします.

 この改定では従来にも増してコミュニケーションが重視されています.生徒にやる気を起こさせる,「生きる力」の一端を担う英語を教えることが,あらためて意識され研究されなければいけないでしょう.生徒が授業を受けて学んだものを教室の外へ持ち出し,道具として自分で実際に使うようになるために,今までとは別の角度からの教育技術の開発が期待されていると思われます.

 私見ですが,今,われわれ英語教師に必要になってきているのは,教育一般と特定の項目を教えるための教育技術との中間に位置する「語学教育」あるいは「語学教育を受ける学習者の心の動き」についての,ある程度普遍性のある知識のように思います.現場ではこの種の知識を経験から無意識のうちに培うことが多いのですが,これらを共有できる形にすることで,今まで研究・開発されてきた指導技術の中から,自分の生徒に合った無理のない,発展性のあるものを,試行錯誤なしで選ぶことができるようになると考えられます.自然な体勢で行われる授業を通してこそ,学習者である生徒は英語を学ぶことに喜び・満足を感じ,周囲の人と積極的なコミュニケーションをしようという意識を持つようになるのではないでしょうか.

 「競争型」の目的意識で英語を学んでいては,コミュニケーションの能力は育たないでしょう.広く周囲に目を向け,それとの関わりを可能にする語学力を目標にして勉強するようにしむけることが大切だと思われます.この日常的でいつまでも役に立つ語学力を持ちたいという目的意識は,生徒の努力を惜しまない学習態度につながりますし,現在の実社会で要求されている「語学力」につながっていくと考えられます.英語学習の初期の段階である小・中・高等学校においては,コミュニケーションの道具としての英語の持つ可能性・奥行きを生徒に体験させることが教師の最も重要な役割ではないでしょうか.この段階では,今まで以上に,教育技術だけでなく教師のパーソナリティがカギになってきている気がします.

 Newsletter 40号でお知らせいたしましたが,このような状況をふまえてASTEでは1999年度から2000年度にかけて「21世紀の英語教育が目指すもの --個と集団を視野に」というテーマで活動を続けております.今年度は,その後半となりますが,昨年以上に何か実のある知を得るべく,皆さまとご一緒に研究活動を続けていきたいと思います.まずわれわれ教師からコミュニケーションの機会を増やせたらよいと思っておりますので,ぜひご参加ください.

 また今年度は,ASTEの20周年の年にあたりますので,いくつかの特別な企画を考えております.特別な講演会などに加えて,住んでいる場所に関係なくASTEの活動に参加していただけることができるよう,活動のコンピュータ化の企画もありますので,こちらの方にも,よろしくご協力をお願いいたします.


 
 

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「ネパールとNGOに出会う授業をめざして」

〜学びが広がる教室をつくる〜

 

ASTE第102回例会          1999年10月23日   

柏村みね子(東京・江戸川区立小松川第三中学校)

. 今を生きる子どもたちの課題と教育の意味

・生まれてきた意味を問うこと・・・中等教育

・世の中のおもしろさ、不思議さ、たのしさに出会うこと・・・初等教育

・想像力と感性を磨き、自分と世の中のつながりを実感すること。

 自分が生きていることは価値があることだと自覚し、

 他者やじぶんをとりまく世界にはたらきかける意識を育むこと。・・・教育全体

<グローバル教育、平和教育(ConflictResolution )から学ぶこと>

  安心で自由で信頼のあふれる学びの場でこそ、学びは広がり、深まる。

  The Medium is the message. 学びかたこそが学ぶ内容である。

  アクティブな学び手を育てる(佐藤)

.外国語教育の中でそれをどのように実現するのか         

(1)こころを動かされる教材に出会うこと。   

  グローバルでローカルな題材

(2)自分を語ることばを持つこと。         

自己表現活動

(3)他者と関わりあい、学びあう経験をすること。

  共同学習

(4)教室の外に飛び出し、人間同士のリアルな交流があること。

  現実感、交流

. 授業づくりのキーワード

(1)テーマ学習と教材づくり

  人権・環境・開発・地域研究・平和などのグローバルでローカルな題材を教室に。

(2)こころとからだが動く授業

 五感を働かせ、人と関わり合って学ぶ。

(3)テーマと言語材料の統一

  テーマの流れの中で文法事項や単語を定着させる。

. 「ネパールの人びとと川原医師」の授業実践から

(1) 対象中学3年生4クラス (153)

(2)教材  ネパールとアジア保健研修所

 教科書で1つのNGOについて取り上げることはまれであるが、平成5年度版からサンシャインBOOK3に取り上げられている。川原医師がネパールで出会った状況とAHI設立の経緯が描かれている。ただし、ネパールに対して、不便で遅れた印象が残り、国際協力のありかたを考える点で不十分である。そこで、AHIのニューズレターを中心にオリジナル教材をつくり、教科書のよみとりを間にいれることにした。

1> アジアの子どもNo.27 「ヒマラヤの青い空の下で」

・この教材をみて、すぐにこの教材を中心に据えようと決めた。

・ネパールの山岳地帯の人びとの温かさが伝わる文とイラストがすばらしい。

・そこから医療と暮らしの問題に入っていき、川原医師の患者との出会いが続く構成は、教科書に取り上げられた部分よりもはるかに問題がはっきりして訴える力も強い。

・子どもたちの労働、識字、グローバルマーチにつづくエンディングはまさに子どもの権利条約の精神とエンパワメントの世界で非常にひかれた。

・ALTのサラブロックさんの力を借りて英語版を作った。イラストと日本語の文、ネパール情報も生かして、再構成した。

2> Sunshine Book 3 Program 6 " Sharing for Self-help "

・上記のアジアの子どものプリントの授業の中盤に教科書の英文のよみとりをはさみ、区切りながら、頭から訳す方法をとる。

(3)ねらいと課題

1>ウオーミングアップ・前課とのつながり

前課で国連、赤十字に関するリスニングやパズルのアクティビティを行った。またテスト問題のリーディング教材で「真のボランティアとは何か」を考える機会を持った。次の課でAHIのスピリットを感じとるウオーミングアップの意味もあった。

2言語材料など

3年生の山場である関係代名詞の主格の用法がメインである。せっかくテーマが「ネパール・AHI」であるから、文法の導入の例文もそれにこだわることにした。難易度の問題もあり、これは大きな挑戦である。長文にであったも辞書を使って抵抗感なく読み進める力をつけたい。辞書になれる機会とする

3>「感じる」を大切にしたからだとこころを動かす授業

手を動かしたり、立ち上がってみてまわったり、映像をみたり、音を聞くなど全身でネパールの風を感じる授業にしたい。仲間と協力して取り組む課題と自分のペースで取り組む課題をバランスよく入れる。

<4>「かわいそうだから募金しよう!」を乗り越える授業

開発教材にありがちな「否定的側面」との出会いだけではなく、自分たちにはない価値観、自然とのつきあいかたをしている人びとから学ぶ観点を重視する。途上国の暮らしを知って、即援助、募金に取り組むような結果を乗り越え、学ぶことによってエンパワーされるような、勇気のでる学びの場をつくりたい。

(4) 授業の流れ

1)1時間め 関係代名詞マッチングゲーム、英文の内容はユニセフ、ネパールなど。

2)2時間目 英語通信No.31 アネハヅルとネパールの山の人びと

3)3時間目 英語通信No.32-33シェルパ族の暮らしとネパール情報

英語と日本語の文のマッチングゲーム印象に残った文を書き出す。川原医師のお話にコメントを書く。

4)4時間目 英語通信No.34  ある患者との出会い

川原医師が出会った女性の患者にみる山のくらしと女性の地位を予想し意見を出し合う

5)5時間目 単語・関係代名詞のたしかめ、読みの練習、スラッシュ

6)6〜8時間目 教科書 

7)定期テスト問題 ネパールの子どもたちと識字

8)9時間目 英語通信 グローバルマーチと子どもの権利

    課題:川原医師かネパールのシシャムさんに手紙を書こう!

9)10時間目 リーディングテスト(好きなセクションをひとつ読む)

10)11時間目 ネパールの風を感じて〜ヒマラヤエコロジースクール〜(ビデオ)

ネパールのヒマラヤ山麓の村の人びとと日本からのスタディーツアーのメンバーが互いにホームステイの中で学びあい、友情を育む様子を見た。村の人があたりまえにやっている自然との共生を、まのあたりにして厳しい山の暮らしであってもとても明るく、自分たちと同じように生活の中に楽しい出来事もわらいも涙もある生き方を目の当たりにしてネパールの人びとへの視線も違ってきた。

<生徒の感想から>

・この広い、世界の中で私たちが知らない生き方をしている人達がいる。私は彼らのことをもっと知りたい。世界の風に会いたい。(K君)

・自然は大切に使い、再び元に戻るようにする。女や子どもも男と同じように働き、また動物も一緒に生活していく。自然と共生している人の姿がよくわかった。(U君)

11)英語係の活動「感想をKJ法でまとめる」模造紙で掲示

(5) 生徒の反応

・2学期後半に入り、予習をする生徒が増えた。

・教科書の英文を読むときにうつむきがちな生徒がオリジナルプリントには取り組む。

・素直に内容を受け止め、興味を持つ生徒が多い。

・グループで関わり合いながら、手を動かして取り組むことに慣れてきた。

・考えたり、感じたことを出すことに慣れていないので、フリーズする生徒が多かったが徐々に慣れてきた。

(6) 川原医師に会いに行く!

 冬休み、愛知県にあるAHIを生徒からの手紙のファイルを持って訪ねた。教材を作ったスタッフのみなさんと会い、川原医師ともお話しすることができた。AHIの姿勢の本物さに感動して帰ってきた。冬休み明けの授業はそのときの写真を使って、英語でAHI訪問記を語って聞かせた。ほんとうにいったのか!と驚く声が上がった。

<川原医師への生徒からの手紙>

・今回の授業を通して強く感じたことは,どこでどんな生活をしていてもどんな人種であろうと、人はみんな平等でなければならないということ。私たちのように今の日本のような平等な者かいに生まれた人びとは、差別についてあまりにも知らない。知ることはとても大切なことで、こころに余裕のある人は彼らを楽にするため、差別をなくすために、闘うべきだと思う。私はそんなこころを持った大人になり、自分にできる精一杯の協力をするつもり。世界にはいろいろな機関があるが、AHIというのは初めて知った

"Sharing for Self-help" すばらしい活動だと思う。(Fさん)

It is interesting for me to study about AHI.Because I want to do a useful job. Though I have not friend who shared my dream.First, I make a lot of friends who shared my dream. Then,I will think "what can I do for Nepalese children."(U 君)

(7) 川原医師からの手紙

 受験を控えた2月のある日、川原医師から生徒宛に手紙が届いた。英語で手紙を書いた生徒に敬意を表して、川原医師は日本語と英語と両方で手紙をくださった。すぐにプリントにしてその手紙をみんなで読んだ。また、ひとりひとり辞書を引いて手紙を日本語に訳すことを課題とし、2月末の学年末テストではまとめとしてその手紙を出題した。

 The key to happiness is having dreams.

 The key to success is making them come true.

 Keep dreaming, boys and girls !

という一節を自分自身へのことばかけとうけとった生徒が多く、夢をもつことの大切さ夢を実現することへの決意をかためた生徒もいた。夢のもてない生徒もたくさんいる。

そのような生徒にとって、夢を実現した実在の人のことばはリアルで信頼するに足るものであり、また生きていくための大きなパワーをもらえるメッセージであった。

(8) ひとりひとりのMy Dream

 3年生最後の授業は、全員がMy Dreamというタイトルのスピーチをしてそれをビデオにとることだった。川原医師の夢、キング牧師の夢、大きな夢に触発されて、ひとりひとりが一生懸命考えた1カ月だった。「今日はみんなの夢が聞けてよかった。ひとりひとりの声が聞けたし。」という感想があった。感想の一つ一つ、テスト用紙の片隅のひとことに励まされ、すてきだなあと思うことが多くなった。教室の外との交流は、また、最後に教室の中で仲間同士の交流にもつながった。学ぶことでエンパワーされる経験をと思って準備してきた半年が、最後に授業のコーディネートをした私自身にも何倍にもなって戻ってきた。また、春に向かう勇気がでてきた。静かにうれしい3月であった。

() ネパールとの交流 はじまり、はじまり〜

 年度が変わって、2年生の授業を持っている私に、ビデオ「山岳エコロジースクール」以来のつながりのヒマラヤ保全協会(IHC)から連絡があった。10月にIHCのネパール人スタッフのドゥンガナさんを招へいするので、学校で受け入れてもらえないかということだった。担当している2年生は、英語の授業だけでなく、道徳・学活の授業を通して、子どもの権利条約の学習を経験していた。そこで、早速、社会科と英語の授業で事前指導をしたり、生徒の学年委員会で、交流会の準備をはじめた。一方的にお話を聞くのではなく、生徒やまわりの先生と一緒に準備し、五感を通じて、ネパールにふれるような、人間的な交流をめざした。

<生徒の感想文より>

・最初、ドゥンガナさんが体育館に入ってきたとき、防止のようなものを頭にかぶっていたので驚きました。ネパールの人はみんなああいう帽子をかぶっているのかなと思ったけど、あとでビデオで見たときには頭に布を巻いている人はいたけど、何もかぶっていない人もいました。やはり日本と同じように帽子なのかなと思いました。それから、ネパールのビデオを見て、いろいろなことがわかりました。私の想像とは違っているところもありました。ネパールの子どもたちが私たちの生活を見たらどう思うんだろう?

あと私はドゥンガナさんが「日本にもストリートチルドレンはいますか?」と質問したのに、驚きました。外国といえばアメリカなど近代的な国を思い浮かべてしまうけど、ネパールと日本の貧富の差は大きいんだなと思いました。(kさん)

・ネパールは日本と暮らしがぜんぜんちがい、とてもびっくりした。でも、ネパールの人はそのくらしでも楽しそうに暮らしていて、どんな生活でも楽しいとわかった。(D)

. ネパールの子どもたちとの交流、これから

交流会は、20名近い保護者の参加もあり、大変温かくていい会になった。

今後は、IHCからのお話で、今度は「日本の中学生の生活とメッセージ」を伝えるビデオを制作し、12月の「山岳エコロジースクール」(スタディーツアー)で交流相手の村まで運ぶことになっている。ネパールの子どもたちがどんな反応をくれるのか、また日本の子どもたちが、交流によってどんなふうに力をつけていくのか、大人同士の交流も含めて、大変楽しみにしている。このような総合的な取り組みを通して、大人も子ども「学ぶことは楽しいし、意味があることだ」と感じること、そして、この経験が、子どもたちの世界観を広げると共に、生活や学習を支える共通の基盤となることをめざして、次のアクションを生み出していきたい。


 

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Non-threatening Classroom Observation

ASTE第103回例会           1999年11月13日

倉住 修 (上智大学非常勤講師)

0. はじめに

 昔スペインの大使館に勤めていたスペイン人ふたりに日本語を教えていたときのことです。彼女らが灰色の服を指して「これはグリーンだ。」と言うのにちょっとした驚きを感じました。しかしよく観察してみると確かに緑色っぽい色合いが見て取れないこともないことに気がつきました。それは驚きであるのと同時に自分の色の感覚を見つめ直す良い機会でもあったわけです。ひょっとすると実体というものはひとつの視点からだけでは見えてこないものなのかもしれません。

 我々語学教員が教室で教えていることから体験的に感じていることもひとつひとつはおそらく真実なのでしょう。しかしそれを別の角度から映し出す鏡を持たずして本当に自分の教え方を知っていると言えるのでしょうか。そんな自分の教え方を正しく見つめ直すための鏡としてオブザベーションの活用を提案することにしました。

1. オブザベーションの目的

 大オブザベーションの目的を大まかに3つに分けて考えてみましょう。まず1)リサーチのため、2)教員教育(teacher education)のため、そして3)教員の能力開発(teacher development)のためという感じです。今回の発表のテーマである non-threatening observation に向かうためには3)の目的でオブザベーションを行うことが鍵になってきます。それはまた後でお話するとして簡単にそれぞれの特徴を見てみましょう。

 リサーチのためのオブザベーションはさらに二つのタイプに下位分類できます。ひとつは文化人類学や社会学、社会言語学で多く使われる手法で、あらかじめ何を見たいという焦点を決めないで観察するものです。これによって起こることすべてを偏見なしに記述できるという利点を持っています。その代わりに記述されるデータ量は膨大になります。それに対して先に観察する焦点をしぼってしまうやり方もあります。ひとつの行動や現象がつぶさに観察でき詳細なデータが得られるので効率的です。その反面その焦点以外に興味深いことが起っても見過ごしてしまうことにもなります。実際に教室活動の様子を記述する場合は後者の焦点をしぼって行う方を選ぶことが圧倒的に多くなります。そうしておかないと限られた時間の中であまりにもたくさんのことが同時に起きる教室活動を記述することができないからです。

 オブザベーションの二番目と三番目は重なる部分もあるのですがその目的や手順の違いを明確にするためきちんと定義づけたいと思います。教員教育というのは「指導する側」がこれから教員になる者をいかに養成するか、あるいは現役の教員をいかに矯正するかということを指しています。したがってオブザベーションを行うのは指導者側の仕事になります。こういった意味では指導教官による教員の訓練(teacher training)とほぼ同義と考えてよいでしょう。Freeman(1982)によると訓練は特定の技術習得が目標であり、その技術もあらかじめこうあることが望ましいという風に規定されているものだとしてこの後に述べる能力開発と区別しています。

 それでは教員の能力開発というのは何をさすのでしょう。これはあくまでも「個々の教員」が自分自身の能力向上を目指すことを意味します。あらかじめ規定された技術習得を目的としているのではなく、自分自身の教え方を振り返ることでプロフェッショナルとしての自分をより高めていこうというプロセスだと考えられます。オブザベーションするのも教員自身でありそのデータを活用するのも自身のためという教員の視点に立ったものです。それではこの違いを念頭において教員教育のためのオブザベーションを概観してみましょう。

 おそらく多くの教員にとってオブザベーションというとまずはじめに連想するのが教員教育プログラムの中で行われるオブザベーションではないでしょうか。たとえば教育実習で実習生として指導教官に自分の授業を見てもらうといった経験は教員なら誰しもが通ってきていますね。これなどは教員教育のオブザベーションの典型例でしょう。指導教官がどういう態度でオブザベーションを行ったかということにもよるのですがたいていはこういうタイプのものは緊張感を高めるものです。この緊張感を呼び起こしているのはやはり「評価されている」という感覚でしょう。教員でなくとも他の人に自分の仕事ぶりを批評されるというのは気分のいいものではありません。オブザベーションを行う者が自分よりも地位の上の者であるとヘタな授業をして印象を悪くするのは避けたいと思うでしょう。では逆に自分と同等あるいは経験の浅い者に授業を見せるのなら緊張感は低いかというとそうでもありません。やはりヘタな授業をして相手から「フン、たいしたことないな。」と思われては自分の体面がボロボロです。このように相手が誰であれ評価のために見られているという受け止め方はまさしく「まな板の上の鯉」になるような気持ちで、この気持ちがオブザベーションを脅威にしてしまうのです。他人に授業を見せるなんてごめんだと拒否反応を示す教員の多くはオブザベーションを脅威と感じているはずです。しかし他の人からもらえるコメントは自分の教え方を向上させていく大切なデータを含んでいる可能性があります。辛辣なコメントを聞いたときはがっかりしたりショックを受けたりするかもしれませんがそれは将来の飛躍のための機会を与えられたと前向きに解釈すべきなのです。

 そこで教員の能力開発という視点が大切になってきます。このアプローチではオブザベーションは自分の教え方に関するデータ収集を意味します。つまり他人の客観的な目を通して自分の教え方の改善点を見つけるという作業を行うのです。「こうあるべき」という基準から自分を見るのではなく「こうである」現在の自分をしっかりと見つめること(reflection)が重要になります。観察する側もそれによって教員の能力評価をするのではなく相手の内省と自己決断の手助けをするという役割を担っているのです。このようにしてオブザベーションをする側とされる側は相互の信頼に基づいたパートナーシップを築くことになります。こういう信頼関係の中から「オブザベーション=脅威」という構図は生まれてこないのです。めでたし、めでたし。

2. オブザベーションの手順

 前節でオブザベーションを脅威でなくすためには教員の能力開発のための手法として利用することが鍵になると述べましたがこういう能力開発のプロセスを内省型教授(reflective teaching)と呼ぶこともあります。Richards & Lockhart(1994)は内省型教授におけるオブザベーションの原則と手順をまとめて紹介してくれています。それによるとオブザベーション全般にわたる原則とは、

(1)焦点を定めること

(2)具体的な手順を踏むこと

(3)観察者は観察に徹すること

Richards & Lockhart, 1994: 24

とされています。三つとも当然と言えば当然のことですね。しかしある意味では具体的な手順よりも大切なこととも言えます。というのは具体的手順はオブザベーションを行う環境や制約によって省いたり変えたりすることもできますが上記のような原則はどんな場面でも守らなければならない項目だからです。この三原則に加えるとしたら「相互に相手を尊重すること」でしょうか。特にオブザベーションをする側に相手に対して礼儀が欠けると悲しい結果になることがあります。その礼儀とはたとえばオブザベーションをする前に必ず相手に了解を得ること、直前になって予定を立てたり変更しないこと、オブザベーションの途中で退席しないこと、録音、録画のときは教員、生徒双方の許可を得ること、その授業のレベルや目的、カリキュラムなどの背景知識を持つことなどはすべて礼儀でありオブザーバーの義務でもあります。これを怠ると信頼関係を損なうことになりかねません。私がTESOL課程にいたときには指導教官からは学外でオブザベーションをした後に授業に対するコメントすることを固く禁じられていました。せっかく見せてもらった相手に非礼になるからです。こういうコメントは相手との信頼関係が確立されて初めてできるものだということでしょう。

 それでは具体的手順を見ていきましょう。こちらは以下の項目があがっています。

(1)オブザベーション前の打ち合わせを持つ

(2)オブザベーションの焦点を示す

(3)観察者が踏む手順を作成する

(4)オブザベーションを行う

(5)オブザベーション後に話し合いを持つ

Richards & Lockhart, 1994: 24-25

形式的で評価型のオブザベーションの場合は4と5だけで終わることが多いようです。つまりいきなり授業を見てその感想を言っていくだけというタイプです。これでは自分の行動を振り返るのに有効なデータがどれだけ得られるかあまり期待できません。この中で私自身が大事にしているのは1番目です。これはオブザベーションを行う授業の背景知識を得るために不可欠なことです。私は学外に出かけていくときはその学校のカタログに目を通すことから始めます。スクールカタログに目を通すだけでもたとえば学内のコンピュータの台数、一授業の学生数、語学カリキュラムのシステムなど様々な情報が得られるのです。しかしそれでもクラスのレベル、進度、教員が感じる問題点などを知るためにはやはり担当の教員に会って話をしておくことが必要です。これらのことがわかっていないと観察したことの解釈に大きく差が出る場合がありますので五分でもいいですから担当教員との話し合い、打ち合わせはしておくべきです。

 2番目のオブザベーションの焦点は内省型のアプローチでは見てもらう教員側が決める方がよいでしょう。行動レベルであるならたとえば「自分が話をしている時間と生徒が話している時間の量」、「自分の教室での立ち位置」「自分の視線はどうなっているか」など普段自分が問題があるのではないかと感じているものをこういう風に指示を細かくすることで発見することできます。逆に指示が漠然としているとオブザベーションする側はどう記述をしていいのか迷ってしまい十分なデータが得られなくなりますので気をつけたいものです。

 2番目でどれくらい細かいものを求めるかで3番目の手順に違いが出てきます。一番大きいのはどの程度精密な記述をしていくかの差でしょう。またデータの記述法の選択にも関わってきます。たとえば教室の位置関係を見るもの(教員はどこに座っている生徒を指名する傾向があるか、どの位置に教員が立つことが多いのかなど)では座席表を書いて記述することになるでしょうし、時間的な特徴を見るもの(どの活動に何分時間を書けている、教員と生徒のしゃべる割合など)では時間の推移による記述表を用意しなければいけません。いずれにせよ焦点にしたものを記述するのに適したものを選ぶ必要があります。TESOLの研究の中では教員と学習者の間のやりとりの記述法がいろいろと開発され(FLint, FOCUS, TALOS, COLTなど)それぞれ目的に合った使い方をすればかなり細かなデータがとれるように考えられています。

 ここまできてやっとオブザベーションに移ることができます。実際に教室に入ったときにはまず自分が「消えることの出来る位置」に座るようにしましょう。これはオブザーバーの存在を極力生徒に意識させないためです。またできる限り自己紹介はしてください。録音、録画の許可も生徒に求めるのもたいていはこのときになりますがひとりでも嫌がる者が出てきたら素直にあきらめましょう。隠し撮りなど言語道断の行為ですので気をつけてください。

 記述する際の大切なポイントになってくるのが何を記述するかですが、これは三つのものに分類することができます。一つ目は行動描写(description)です。これは教員や生徒が行った行為をそのまま記述するにとどめたものです。

教員: 生徒1を指名。

生徒1: 10秒の沈黙。

教員: 生徒2を指名。

この様な記述が描写になります。二つ目は推測(inference)です。これは教員や生徒がなぜその行動をとったのかをオブザーバーが推測して記述したものです。下の例では括弧内の部分が推測です。

教員: 生徒1を指名。

生徒1: 10秒の沈黙。

教員: (生徒1がわからないと判断して)生徒2を指名。

推測が必ずしも正しいとは限りませんのでこれはオブザベーション後に教員に確認しておきたい項目になります。三番目は意見(opinion)または評価(evaluation)です。下の例ではカギ括弧内がオブザーバーの意見です。

教員: 生徒1を指名。

生徒1: 10秒の沈黙。

教員: (生徒1がわからないと判断して)生徒2を指名。

    [生徒1に答えさせるべきであった]

内省型のアプローチではこの意見・評価はしない方がいいでしょう。理由は後で述べます。

 いよいよオブザベーション後の話し合いですが、ここでは定めた焦点に関して実際に見られた行動、現象がどうであったかを教員に伝えます。内省型教授では行動描写したものだけを伝えて、なぜその行動をとったのか、そしてそれが正しかったのかという評価は教員自身に振り返らせるようにします。上記の例にあるオブザーバーの意見などは教員にすれば「生徒1に解けない問題を答えさせようとこだわることで余計に恥をかかせてしまうことを恐れて生徒2を指名し直した」のでそれはそれでよかったと言うかもしれないのです。ここでオブザーバーが自分の推測を確認として提示したり、意見や評価を教員に考えさせる材料として提示するのはよいのですが、それをあたかも事実であるかのようにつきつけるとせっかく築いた信頼関係が崩れてしまいかねないので注意が必要です。あくまでも教員自身が内省することに主眼があるのですから。

3. おわりに

 今回はオブザベーションをいかに脅威に感じないで活用できるかに焦点をあててみました。目的、原則、手順を理解した上で行えばオブザベーションは強力な道具になるのだということをこの発表で示せたとしたら少なくとも何らかの意味はあったと思います。しかし同時にこれは来たる21世紀に向けて我々語学教員がどうあるべきかについてもひとつの提案になっていたはずです。それは既存の手法も視点を変えて利用すれば現代的なニーズにも十分対応できるということです。このことは変革をもたらすのは道具ではなくて人のものの見方なのだということを示すのではないでしょうか。おそらく物事がうまくいかないからといって道具を取っ換え引っ換えしても問題は解決しないのでしょう。古くさくなった道具を活かしきれていない自分にこそ問題の根っこがあるのだと気がつくまでは。

【参考文献】

Freeman, Donald. 1982. Observing teachers: three approaches to in-service training and development. TESOL Quarterly 16: 21-8.

Richards, Jack C. and Lockhart, Charles. 1994. Reflective Teaching in Second Language Classrooms. Cambridge University Press.


 

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21世紀の英語教育に向けて--報告

104ASTE例会      2000年1月22日

「21世紀の英語教育に向けて」と題していつものように上智大学6号館で行われた.シンポジウムという予定であったが,今回は,会場の仕様の都合で講義形式になってしまった.例会の発表者のお一人,柏村先生は参加いただけなかったが,予定通り,今年度の例会で発表していただいた,上智短期大学で教鞭をとられている水野邦太郎先生と上智大学・高崎経済大学・慶応大学(SFC)で教鞭をとられている倉住修先生に口火を切っていただいた.お二人が例会での報告をあらためてまとめて話され,それを出発点にして,質疑応答という形になった.各先生のお話の内容は,別途記載されているので,ここでは割愛する.今回お二人の先生が強調された点ならびに,その後フロアから出た主な意見・コメントは,以下の通りである.

水野先生

今回自分の行った方法を,動機付けとしての1つの方法として提示したい.

倉住先生

Teacher Training が必要であるが,個人のレベルで自己開発をする突破口は,classroom observation である.

吉田先生

教育の質的転換が必要である.学習者が意欲を持って学べる体制をいかに作るか,小学校1年生から大学4年生までの16年間を,一貫性を踏まえた目で見,教員養成が必要である.

以下は,フロアーから出た意見・コメント(C:コメント Q:質問 A:その答え)

C:自分はコーネル大学で日本語を教えているが,150時間程度の授業の後で,自分のことを話させると Target Language 10分くらい話すことができるようになる.この際,文法項目はあまり増やさないで教える.文法項目を減らし生徒に活動させることがポイントであろう.

C:自分の授業では Reading で1冊本を読み,クラスでその内容を話し合ったが,だんだんと生徒間の格差がなくなってきたように思われる.

・水野先生のような大学と中高との間でリンク張り,活動させてみたい.

Q:大学入試に TOEFL を入れるべきかということが大学では話題になっているか.

A:吉田先生

発想としては考えられている.どのようなテストであれ,テストについて闇雲に練習するのではなく,テストが望んでいる能力が何かを考えるべきであろう

.しかし受験をする側にそこまでできるかは問題かもしれない.

Q:教員ではなく一般の生徒はどのレベルまでの英語力を身につけるべきと考えるか.

A:吉田先生

国際的レベルでコミュニケーションができるレベルが望ましい.これは,認知的レベルで内容(content)を処理する能力ではないか.

C:現在の教員の評価基準を考えるべきではないか.特に大学は教員の再審査制を導入したらよいのではないか.

C:現在の教員は若い人に将来を託すのではなく,自分でするべきである.ただ,needs がさまざまなので,一人の教員がすべてをしなければならないという考えをやめ,各種研修制度を設ける必要があるだろう.英語教育機関の間に一貫性のあるリンクが必要.

文責:石川和弘

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〜〜〜お知らせ〜〜〜

1) ASTE  Newsletter は、ASTE のホームページ

     http://www.bun-eido.co.jp/ASTE.html
にも掲載されています。インターネットをお使いの会員で、このニュースレターの送付を必要としない方は、下記 ASTE 事務局までお知らせください。その他、ASTE に対するご意見、ご希望などございましたらお知らせください。

2)上智大学大学院応用言語学研究会 HOME PAGE 

 これは、上智大学の大学院で応用言語学を専攻した卒業生、または現在専攻している学生による HOME PAGE です。言語学、言語教育、応用言語学に関する関連サイト、短い記事や論文などが沢山載っています。興味のある方は是非一度立ち寄ってみてください。
CALPS HOME PAGE:

http://www.ne.jp/asahi/calps/home/index.htm

3)上智大学外国語学部英語学科 HOME PAGE

英語学科のホームページには英語学科で学べる専門分野についての紹介が各分野担当教員のエッセイの形で紹介されています。(上智大学の購買部でも買えます)
http://133.12.37.57/fs/eigo/eigo.htm

4)上智大学外国語学部言語学副専攻監修 「言語研究のすすめ」

 言語学の色々な分野を紹介したエッセイ集です。(上智大学購買部でも買えます)
http://133.12.37.57/fs/fukusen/gengo/gensusu.htm

5)上智大学大学院応用言語学研究会

 この4月から大学院応用言語学研究会のオームページを開きました。院生が調べた論文の要約、そして、研究会で実施した帰国子女のアイデンティティに関する報告等が読めます。
http://www.ling.sophia.ac.jp/applied/

6)なお、ASTEは、上智大学英語学科主催の研究会で入会金はありません。
 
 

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ASTE 2000年度前期予定

   ASTE 第105回例会

   講演:「これからの日本の英語教育はどう変わるか」
   講師:吉田研作(上智大学)

   日時:2000年4月22日(土)3〜5pm

   場所:上智大学 6号館 311教室

   ASTE 第106回例会

   特別企画:「ASTE 20年の歩み」
   講師:John J. Nissel (上智大学名誉教授、鹿児島順心大学教授)<予定>

      柳瀬和明(都立飛鳥高等学校)

      石川和弘(清泉女子中高等学校)

      吉田研作(上智大学)

   日時:2000年5月27日(土) 3pm〜5pm

   場所:上智大学 6号館 311教室

   **なお、この日は、例会終了後、ニッセル先生を囲んで20周年記念パーティ

      を開催する予定です。ふるってご参加ください。(下記をご覧ください)

   ASTE 第107回例会

   実践報告:OCAでのGroup Presentation「地域研究」の試み
   発表者:望月尚子・柳瀬和明(都立飛鳥高等学校)

   日時:2000年6月17日(土) 3pm〜5pm

   場所:上智大学3号館5階、AVルーム
 
 

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The 27th Seminar Sophia Seminar

for High School Teachers of English

This is an all-English seminar is for Japanese junior and senior high school English teachers which has been held since 1973. 

Theme:English Education in Japan--heading into the 21st Century

Lecturers:Louis A. Arena(University of Delaware)

Kensaku Yoshida (Sophia University)

etc.

Dates:August 1 〜 7 (2000)

Place:Karuizawa Sophia Seminar House

Fee:\70,000 

Application deadline:June 1st, 2000

For more information contact Dept. of English Language & Studies, Sophia University

tel: 03-3238-3719

fax: 03-3238-3910

email: yasuko-w@sophia.ac.jp

**詳しい情報は決まり次第、 ASTE や CALPS のホームページ等でお知らせいたします。

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ASTE事務局

〒102−8554東京都千代田区紀尾井町7−1

上智大学外国語学部英語学科内

吉田研作研究室

tel: 03-3238-3719

fax:03-3238-3910

email: yosida-k@sophia.ac.jp

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ASTE20周年記念行事のお知らせ

 お陰様で、ASTEは今年で20周年を迎えることになりました。そこで、ささやかながら下記の要領で20周年記念例会と懇親会を行います。

 これまで事務局長をつとめて頂いているおなじみの吉田研作先生はもちろん、ASTEの創設にご尽力頂いたニッセル先生にもお越し頂く予定です。

 これまで通常の例会にはなかなかお越しになれなかった方も、「20年分のASTE」と「これからのASTE」を一気に語り合う絶好の機会かと思います。

 一人でも多くのご参加をお待ちしています。

 日 時: 2000年 5月27日(土)

       15:00〜17:00 20周年記念例会 (6号館 311教室)

       17:30〜20:00 20周年記念懇親会

   (なお、懇親会会場につきましては、ASTEのホームページ上で、また参加申し込みを

いただきました方には直接ご連絡いたします)  

 会 費 : 懇親会費 ¥3,000円(当日受付にて申し受けます)

 

申し込み: 懇親会ご出席の方は以下の方へご返事下さい。

        FAX :03-3238-3910 (上智大学英語学科)

         (下の書式にご記入の上、お送り下さい)

        

       メール:aste@bun-eido.co.jp

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参 加 申 込 書

  20周年記念懇親会に参加します。

御芳名:

御住所:

電話番号(FAX:

e-mail アドレス:

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